ナヌカザメはボテっとしたどうにもサメらしからぬ風体のサメだ。ナヌカザメを漢字で書けば「七日鮫」、海から上げても七日は生きるという意味らしいが、魚だから陸に上げれば弱る。どうやらこれは都市伝説ならぬ漁師町伝説で、ナヌカザメのいかにも不敵そうな面構えと、おとなしそうに見えても、捕まえると力強く暴れ、大きな口で噛もうとしてくるからだろう。
ナヌカザメにはちょっと変わった身の守り方がある。危険が迫ると、水を飲んで体を膨らませるのだ。しかしながらフグのように劇的な変化を見せるわけでもなく、どれほどの効果があるのかは分からない。もしかすると防御法でさえないのかもしれない。
サメの仲間はアンモニア臭がするため、フカヒレや干物、練り製品の原料などでしか食されないが、ナヌカザメの身は癖が少なく、山陰地方や九州、志摩などでは食用としている。湯引きした
「鮫なます」という料理をいただいたことがあるが、なかなかの美味であった。
★人魚の財布
ナヌカザメの卵は特筆するべきもので、その名も「人魚の財布」と呼ばれている。ナヌカザメの卵は、半透明で硬いプラスチックのような殻に包まれている。この殻は、曲線の美しいハープのような形で、両端に海草などに巻き付けるためのリボン状の糸がついている。これが、海岸などに打ち上がったのを、いにしえの人々は、人魚の財布と信じていた。
しかしながら、近代工業でなくては作ることができないような一体成形と、その形の美しさ、そして半透明で硬いという不思議な物質でできているそれは、いかにも人魚の持ち物のようである。
この人魚の財布の中で、ナヌカザメの子は1年近くの間ゆっくりと成長し、20cmほどの立派なナヌカザメになって産まれてくる。
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