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ラッコと会える水族館

ラッコ
イタチ科カワウソ亜科/体長1m前後/体重30kg前後
ラッコの写真/アドベンチャーワールド
(写真:アドベンチャーワールドのラッコ)
ラッコは海獣と呼ばれる動物(鯨類、海牛類、鰭脚類、ラッコ)の中では、最も遅れて海の生活を始めた海の哺乳動物だ。そのために、他の海獣のように脂肪をまとった流線型の体ではなく毛がとても多い。また泳ぎもあまり得意ではないので、沿岸にのみ生息して、カニやエビや貝など動きの遅い生き物をエサにしている。

そもそもラッコには他の海獣たちのようにいくつもの種類がいるわけではなく、イタチ科の仲間のうちラッコ1種(3亜種)だけが海獣なのだ。英名では、カワウソがotter、ラッコがsea otterだから、直訳すればラッコは海カワウソあるいはウミウソである。ただし日本語でウミウソとはアシカのことを指す言葉としてあり、アイヌ語が語源とされる「ラッコ」が和名となった。ウミウソよりもラッコの方がいいように思うのは筆者だけではないだろう。とにかく、川の暮らしに適応したイタチがカワウソ、海の暮らしに適応したイタチがラッコと考えておけばいい。

ラッコの生息域は、千島列島からアリューシャン、アラスカなど、冷たく寒い北太平洋の沿岸だ。海獣としては脂肪が少ないラッコは、その厳しい寒さから身を守るために保温効果の高い毛によって防寒をしている。1本の毛穴から1本の体を守る硬い毛「ガードヘアー」と、70本もの綿毛「アンダーファー」が生えていて、アンダーファーの毛と毛の間に空気を溜めることで、空気を断熱層と防水層にしているのだ。ラッコが常に体をかいているのは、その大切な毛を清潔に保ち、空気を含ませるためのグルーミング(毛繕い)なのである。

→コラム「ラッコと水族館、そして日本人」
→ラッコの本一冊分が無料で読める「ラッコの道標」
ラッコに会える水族館
=写真はクリックで拡大します
ラッコに会える北海道・東北の水族館
サンピアザ水族館
青森県営 浅虫水族館(青森県)
  人工保育されたラッコのモモタロウが人なつこく観覧者と遊んでくれる。
マリンピア 松島水族館(宮城県)
鶴岡市立 加茂水族館(山形県)
  ラッコのダンクシュートなど、ラッコのパフォーマンスが可愛い。

ラッコに会える関東の水族館
アクアワールド・大洗(茨城県)
  ラッコが4頭と数が多く、07年にも赤ちゃんが生まれている。
鴨川シーワールド(千葉県)
サンシャイン国際水族館(東京都)
横浜・八景島シーパラダイス(神奈川県)

ラッコに会える東海・北陸信越の水族館(動物園)
新潟市 水族館マリンピア日本海(新潟県)
のとじま水族館(石川県)
伊豆・三津シーパラダイス(静岡県)
下田海中水族館(静岡県)
豊橋総合動植物公園 のんほいパーク(愛知県)
  動物園で唯一ラッコを飼育。広々とした奥行きのあるプール。
鳥羽水族館(三重県)

ラッコに会える関西の水族館
海遊館(大阪府)
神戸市立 須磨海浜水族園(兵庫県)
アドベンチャーワールド(和歌山県)
  頭数が多く、とても見やすい。
太地町立 くじらの博物館(和歌山県)

ラッコに会える九州の水族館
マリンワールド 海の中道(福岡県)
大分マリーンパレス水族館 うみたまご(大分県)
いおワールド かごしま水族館(鹿児島県)
ラッコの写真/浅虫水族館
年をとると顔が白くなってヌイグルミのよう(浅虫水族館)
ラッコの写真/浅虫水族館
水中から遊びに来てくれたラッコ(浅虫水族館)
ラッコの写真/加茂水族館
加茂水族館のラッコはダンクシュートを決める
ラッコの写真/鴨川シーワールド
念入りにグルーミングするラッコ(鴨川シーワールド)
ラッコの写真/のとじま水族館
グルーミングの様子。器用な両手でマッサージするかのように毛繕いする。ヒフがだぶついているので、背中も大丈夫、顔はヒョットコのように変形する。(のとじま水族館)
ラッコの写真/豊橋総合動植物公園 のんほいパーク
ラッコは正面からの角度が最も可愛らしい(のんほいパーク)
ラッコの写真/須磨海浜水族園
後ろ脚は大きなヒレ状になっている(須磨海浜水族園)
ラッコの写真/アドベンチャーワールド
アドベンチャーワールドはラッコの写真が最もとりやすい水族館
ラッコの写真/アドベンチャーワールド
アドベンチャーワールド
ラッコの写真/マリンワールド海の中道
ラッコは赤ちゃんをお腹の上で育てる(マリンワールド海の中道)
 
ラッコと水族館、そして日本人
ラッコが日本の水族館で飼育されるようになったのは1982年とつい最近のことだ。伊豆三津シーパラダイスで初公開され、83年には鳥羽水族館で公開してから大ブレイクした。そのブレイクぶりは、現在の旭山動物園のアザラシ、ホッキョクグマ、ペンギンの展示を合わせた人気を凌駕するもので、当時年間80万人ほどの入館者数だった小さな水族館に、年間200万人もの来館者が押し寄せた。
この人気によって、その後10年ほどはラッコの飼育が水族館入館者の決め手とばかりに、続々と飼育が始められ、最盛期には全国で28館の水族館におよそ100頭のラッコがいた。日本の水族館で飼育されているラッコの数が、世界で飼育されるラッコの数の9割ほどを占めていたのではないかと思われる。
ヌイグルミのような顔、ふさふさの毛、ヒトのような仕草に、知恵のありそうな行動、両手をヒトのように使い、赤ちゃんをお腹の上で育てる…そのいずれもが、日本人の「愛らしい」のツボにぴったり当てはまったのだ。

日本人を熱狂させたラッコのこのパワーは、80年代に始まった第三次水族館建設ブームをも引き起こすことになる。バブルまっさかりでリゾート開発が盛んだったころ、文化的で集客力のある水族館に集客の中核施設としてもてはやされたのだ。デベロッパーは当時の水族館の集客力がラッコだけのおかげだとは思ってもいなかったのに違いない。
さらにラッコブームは動物ブームにまでエスカレートし、水族館のスターどころか動物界のスターになった。テレビでは動物番組がいくつもできて、いずれも高視聴率を稼ぎ、ラッコやコアラをはじめとする様々な動物たちがCMに登場した。エリマキトカゲやウーパールーパー(アホロートル)が登場したのもその頃である。

しかし日本人のラッコへのこの熱狂ぶりは、これが初めてのことではない。
実はラッコが水族館にやってきた1980年の当時、ラッコという言葉は死語となっていて、誰もそれが動物のことだとは知らなかった。水族館のスタッフでさえ知らなかったし、もちろん筆者も知らなかった。ところが、高齢者の中にはラッコを知っている人がいたのだ。「ああ、ラッコの襟ね」「高級な毛皮ね」と…。
ラッコはその良質な毛のせいで、最高級の毛皮として19世紀後半を代表する世界的な商品だったのだ。日本でも古くからアイヌ民族が千島列島のラッコを捕らえ、交易の品としていたのだが、欧米が大船団を組んで、ラッコやオットセイを捕獲していることを知った日本政府は、19世紀の末期、ラッコ・オットセイ猟免許規則を公布してラッコとオットセイの捕獲を奨励した。毛皮によるラッコブームである。

その後、乱獲に対する反省がなされ、ラッコは世界的に保護対象動物となった。しかしそれ以前に、北海道にもいたラッコの絶滅はもちろんのこと、千島列島のラッコも減少し、ラッコ猟はすでに困難なほどになっていた。毛皮によるラッコブームは日本近海のラッコを絶滅させてしまったのだ。
そして、ラッコの毛皮という商品が流通しなくなると同時に、人々の記憶からもラッコという動物は絶滅していった。そもそも猟師以外の人々は、ラッコを毛皮以外の姿で見たこともなかったから、記憶から消えるのも早かったのだ。

現在水族館のラッコは、2世代3世代目の繁殖が難しいのと輸入が困難になっていているため、飼育する水族館数も、飼育頭数もどんどん減少している。また最近では、かつてのラッコブームの面影も無くなって、ラッコが水族館の脇役のようになってしまった感がある。
しかし、毛皮動物でしかなかったラッコを、愛らしく興味深い動物として、再び日本人の記憶に思い出させたのは、水族館での展示があったからのことだった。これからも日本の水族館で、生きているラッコに会うことができればと願っている。
中村 元
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