筆者は日本全国の120を超える水族館および水族館同等施設で利用者(観覧者)の行動を観察するとともに、専門学校の学生を使い観覧者の行動調査を続けている。その結果を簡潔に述べれば、大人の利用者が水族館で費やす時間のほとんどは、気に入った水槽をボーッと眺めたり、水槽を軽く流し見しながら同行者との会話を楽しんでいるという事実だ。
つまり、水族館で大人が見ているのは、生き物ではなく水中の世界そのものなのである。そして、とりもなおさず水中の世界を表現できる水族館が大人の比率を増やし、集客増に繋がっているということでもある。
その代表的な例が、入館者数で他を寄せ付けない沖縄美ら海水族館だ。今では国民の誰もが知っている巨大なジンベエザメが3尾悠々と泳ぐ黒潮大水槽。しかし観覧者は特にジンベエザメに興味があって訪れるのではない。観覧者が本当に見たいのは、ジンベエザメの巨体が悠々と泳げる"海のように広くて美しい圧倒的な水の塊"であり、目の前に広がる雄大な海中シーンに感動するのである。
この水槽を初めて見たとき、筆者は『水塊』という言葉を造語して定義した。『水塊』とは水槽による水中感のこと、海の奥行き感や、浮遊感、清涼感、躍動感など、あたかもダイビングを楽しんでいるかのような"非日常を体験できる光景"のことである。水族館の利用者はこの『水塊』による非日常を楽しむために水族館に訪れるのだ。