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水族館の“マスカルチャー化”時代における集客(2)

中村 元(水族館プロデューサー)

人々が期待する『水塊』

 筆者は日本全国の120を超える水族館および水族館同等施設で利用者(観覧者)の行動を観察するとともに、専門学校の学生を使い観覧者の行動調査を続けている。その結果を簡潔に述べれば、大人の利用者が水族館で費やす時間のほとんどは、気に入った水槽をボーッと眺めたり、水槽を軽く流し見しながら同行者との会話を楽しんでいるという事実だ。
 つまり、水族館で大人が見ているのは、生き物ではなく水中の世界そのものなのである。そして、とりもなおさず水中の世界を表現できる水族館が大人の比率を増やし、集客増に繋がっているということでもある。
 その代表的な例が、入館者数で他を寄せ付けない沖縄美ら海水族館だ。今では国民の誰もが知っている巨大なジンベエザメが3尾悠々と泳ぐ黒潮大水槽。しかし観覧者は特にジンベエザメに興味があって訪れるのではない。観覧者が本当に見たいのは、ジンベエザメの巨体が悠々と泳げる"海のように広くて美しい圧倒的な水の塊"であり、目の前に広がる雄大な海中シーンに感動するのである。
 この水槽を初めて見たとき、筆者は『水塊』という言葉を造語して定義した。『水塊』とは水槽による水中感のこと、海の奥行き感や、浮遊感、清涼感、躍動感など、あたかもダイビングを楽しんでいるかのような"非日常を体験できる光景"のことである。水族館の利用者はこの『水塊』による非日常を楽しむために水族館に訪れるのだ。

圧倒的な水量を持つ美ら海水族館の水塊。人々はここで沖縄の海を見るのであって、ジンベエザメに興味があるわけではない。

シンプルなミズクラゲの展示に人気があるのは、クラゲを通して見えない水の浮遊感を感じられるから。(伊豆・三津シーパラダイス

『水塊』が魅力的な展示

 拙著『中村元の全国水族館ガイド115』はこの『水塊』を利用者の満足度の基準として使っているが、美ら海水族館以外でとりわけ特徴的で水塊度の高い展示を挙げてみよう。
 名古屋港水族館は巨大な鯨類のプールによる水塊度が非常に高いが、さらにマイワシの大群を餌で操る「マイワシトルネード」を開発したことで、水中の浮遊感や躍動感による『水塊』を芸術の域にまで高めた。その手法を導入して「イワシイリュージョン」を行っているのが横浜・八景島シーパラダイスだ。また同館では、空を見上げる天井のないイルカのトンネルプール「ドルフィンファンタジー」をつくり驚くべき水中感をなしえた。この空が見える展示方法は単純ながらも画期的で、その後、旭山動物園しまね海洋館アクアスの空飛ぶペンギン展示の開発へと至った。
 ペンギンと言えば、かつては陸上で立ち歩く展示が主流であったが、しものせき水族館・海響館が新施設ペンギン村でペンギンによる『水塊』を感じる展示に成功した。広さも深さも世界最大級の亜南極ペンギンプールで、ペンギンたちは自然の海での行動と同じように潜水する。泡のジェットを長く噴き出して潜り、群になって泳ぎ回る光景は壮観だ。南氷洋の水中映像でしか見られなかったシーンが目の前に出現したとき、人々の気持ちは南氷洋の水中へと一気にワープする。この臨場感あふれる創造的現実こそが、映像や仮想現実に勝る水族館の『水塊』の魅力なのだ。
 さらに、この亜南極ペンギン水槽では、筆者が生涯学習に最も大切だと考える『知的好奇心の刺激』も実現している。多くの水族館では解説板に「ペンギンは水中では非常に速く泳ぎ、深さ数百メートルまで潜る」などと書いてあるのだが、解説板を読む人は100人に1人もいない。水族館なら、海響館のように水槽で見せられるようにすればいいのだ。そうすれば、どこにでもいる同じペンギンが、観覧者に好奇心を起こさせる特別のペンギンになり、見た人全てに「ペンギンはとてつもないスピードで潜る」ということを伝えられるのだ。
 このような展示技術向上の努力を、水族館も動物園も永らく怠ってきた。単純に展示とは何かを考えてこなかったせいでもあるが、なによりも「子どもへの教育」を目差すあまり学校教育のような教える展示を正当なものだと信じ、全ての世代の知的好奇心を刺激する方法を考えてこなかったのがその大きな要因なのだと思う。

名古屋港水族館の北館(鯨類)には、美ら海水族館より大きな水塊があり、イルカたちが自在に泳ぐ姿に海の世界に引き込まれる。

名古屋港水族館が開発したマイワシトルネードは芸術的に美しく、その躍動感が見る人に感動を与える。

八景島シーパラダイスのドルフィンファンタジーは、トンネル水槽から青い空を見上げる日本初の展示で、水中感の強い新たな水塊を誕生させた。

ペンギンが泡のジェットを引きながら潜るこの展示は、躍動感による水塊を見せるとともに、人々の知的好奇心を強烈に刺激する。



※禁転載。ここに記載されている全ての写真、文章などは中村元の著作に帰属します。
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