『水塊』は、筆者の本業である水族館プロデュースにおいても、最も大切な集客のキーワードだ。とりわけ水塊を前面に押し出して展示をプロデュースした水族館が、昨年8月にリニューアルオープンした池袋のサンシャイン水族館と、本年7月にオープンした北見市のおんねゆ温泉・山の水族館である。
この2つの水族館には共通点があった。どちらも海から離れた内陸の水族館である点が一つ。そしてサンシャイン水族館はビルの最上階のため非常に狭く、山の水族館は超低予算のせいで建屋を小さくせざるをえなかったという、どちらも規模の小さい水族館である点だ。
しかし筆者はいずれの水族館でも、美ら海水族館の圧倒的な水中感を超える『水塊』を実現することを目指した。水槽の規模の数値的な大きさでは、美ら海水族館どころかたいていの水族館にも勝てない。しかし展示の進化のさせ方次第では、既存のどんな水槽よりも人々を水中の世界に引き入れることができるはずだと考えたのである。
水族館スタッフとあらゆる検証と努力を重ねることにより、サンシャイン水族館ではサンシャインラグーン水槽をはじめとする多くの展示で最高の『水塊』を実現し、山の水族館は世界初の滝壺水槽や渓流の再現で、今までに存在しなかった『川の水塊』を実現した。
その結果、サンシャイン水族館は1年間で224万人という、その規模からはおよそ考えられない集客数を記録した。延べ床面積が約5倍、総水量が約50倍もある名古屋港水族館の最大集客数が290万人であったことを考えると、小さなサンシャイン水族館の224万人がいかに驚異的な数字であるかが理解できるだろう。
一方、今年オープンしたばかりの山の水族館は、建物込みの総工費がわずか3億5千万円という通常の水族館の20分の1ほどの超低予算で、さらに田舎にある淡水だけの水族館というハンディを抱えながら、旧水族館の最高年間集客数5万人をわずか1ヵ月で達成し、1年の集客は30万人に達する予想だ。建設費が新江ノ島水族館の18分の1にも関わらず、集客数は6分の1であるから、その集客力と採算性は奇跡的とさえ言える。