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水族館の“マスカルチャー化”時代における集客(4)

中村 元(水族館プロデューサー)

展示によるプロモーション

 筆者は、鳥羽水族館の職員であった頃に、水族館や動物園業界で初となる広報対応の部署を立ち上げてマスコミを利用することを始めた。そしてメディアとともにいわゆる「珍獣ブーム」の創造と盛り上げに奔走し、ラッコやジュゴンなど日本では無名だった動物を売り出すことで「ラッコブーム=水族館ブーム」へとこぎ着けた。しかしその時代を先駆けていたからこそ分かるのだ。珍しい動物で利用者を呼べる時代はもう二度と来ない。  前述したように、現代社会において人々は水族館に『水塊』という水中の非日常を求めて訪れる。そうであれば、『水塊』の楽しみ方や、水族館という空間そのものに、思想を与え性格付けをするのが一番なのだ。
 もちろん、思想とキャッチコピーだけではメディアも人も注目しない。それにより一貫した性格付けがなされた展示とともに、そのコンセプトをシンボリックに表す展示が必要となる。
 そこで、サンシャイン水族館では、一般的な水族館が背景にしている海の代わりに『天空のオアシス』をシンボライズした屋上庭園を出現させ、アシカに天空を泳がせた。これが従来の「×××海岸にある×××水族館」とか、「□□□観光地の□□□水族館」といった、人が集まるところにたまたま水族館があるという水族館イメージを超えて、水族館そのものの強烈なキャラクターづくりに貢献し、メディアの注目を浴びたのである。
 同様に、山の水族館では世界初となる冬には凍結する川の水槽を『北の大地の水族館』のシンボルとした。この今までにない酷寒の地ならではの水槽の存在によって北海道のメディアは湧き、北の大地を愛する北海道民が、これらの展示を一目見たいと集まってきてくれているのである。

大衆文化化をおそれてはいけない

 以上に述べた、集客の核心だけを取り上げた水族館のプロデュースおよびプロモーション理論は、多くの水族館および学芸員、とりわけ公立の施設には受け入れがたい内容であるかもしれない。さらに、筆者は動物園や博物館にもこの考え方を導入すれば、集客を増やすことができると考えているが、これもまた受け入れがたいと考える運営者は多いはずだ。
 しかし、最初に述べたように、博物館系施設が国民への教育施設と考えられていた時代はもうはるかに過去のものだ。日本の博物館も欧米のそれと同じレベルになるためには、まず欧米のようにマスカルチャー(大衆)化が必要なのだ。大衆文化となることから逃げていては、いつまで経っても、子どもの施設(動物園)や、ハイカルチャーな施設(博物館・美術館)のカテゴリーから抜けられず文化のガラパゴス化へと陥ってしまう。
 また、今後水族館はますます増え、さらに多様なスタイルへと広がるであろう。動物園の一部の水族館化は旭山動物園の成功を真似てすでに増えているし、館内に水族館を備える博物館も少なくはない。さらに筆者は現在、サンシャイン水族館がサンシャインシティ全体の売り上げ増に大きく貢献したことから、大規模ショッピングモールなどに集客の核となる小型の水族館を設置する企画を温めている。
 これらを実行する場合に必要なのが、集客のための『水塊』のキーワードと、プロモーションを核とした水族館づくりである。周辺人口のあるところに水族館施設さえつくれば人が集まるという考えでは事業は長期的に成功しない。投資金額によって集客数が変わるというものでもない。マスカルチャー(大衆文化)としての水族館を、利用者の潜在的な期待に応えてつくりあげ運営することこそが事業の成否を左右するのである。

サンシャイン水族館と、おんねゆ温泉・山の水族館の詳細はこちら。
サンシャイン水族館
おんねゆ温泉・山の水族館

中村 元(水族館プロデューサー)
1956年三重県生まれ。成城大学卒業後鳥羽水族館に入社。同水族館を副館長で辞職し、水族館プロデューサーとして独立。「新江の島水族館」「サンシャイン水族館」「おんねゆ温泉・山の水族館」と続けてリニューアルを手がけ、いずれも奇跡的な集客増に成功させた。現在は北海道から九州まで3ヶ所で水族館リニューアルおよび新水族館計画をプロデュース中。東京コミュニケーションアート専門学校の教育顧問。全国の観光地再生アドバイザリーなどのほか、日本バリアフリー観光推進機構および伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの理事長を務める。『水族館の通になる』(祥伝社新書)、『みんなが知りたい水族館の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ)など著書多数。最新刊は『中村元の全国水族館ガイド115』(長崎出版)

この原稿は、綜合ユニコム発行「月刊レジャー産業2012年10月号」に掲載された中村元の寄稿文です。



※禁転載。ここに記載されている全ての写真、文章などは中村元の著作に帰属します。