「水塊」という言葉は筆者が水族館プロデュースをする際に、水槽計画の重要要素として使う言葉なのだが、近年になって一般的に水槽の魅力を表す言葉としても使われることが見受けられるようになった。本誌では水族館の最大の魅力の一つとして扱い、チェックシートでも「水塊度」のカテゴリーを設けている。
筆者の定義する水塊とは、展示水槽のあるべき姿である。それは、海や川の水中から、そこに見え感じる全ての感覚を塊にして切り取ってきたものが、展示に値する水槽であるという考え方だ。
見え感じたものであるから、水槽の大きさに関わらず、どこまでも続く海の広い景観、水による浮遊感、生物たちの存在による立体感、キラキラと踊る陽光の柱、流水の清涼感、水流や生物による躍動感…と水中であることが容易に感じられる要素が必要だ。
実は水族館を訪れるほとんどの方々は、生物を観察することだけが目的ではない。水生生物たちを含む「水中世界」に瞬間移動できることを期待しているだろう。むしろ、目的のほとんどは、それだけであることが多い。
だから、大人が水中の非日常を求めて水族館を目指す。暑い夏には涼しさを求める人々が水族館に集まる。ミズクラゲという名前も確かめずその浮遊感の虜になる。水塊は命の源である水によって、現代社会や暮らしにストレスを感じた人たちに、安らぎと潤いを与えるようだ。だから水塊度の高い水族館には大人の利用者が多く、水塊度の高い水槽の前には、長く留まる人々が多い。
そして、そのような水槽では、本来は魚の観察をする気持ちがなかった人たちも、魚の姿や行動にある魅力を発見する。ダイビングを始める人たちが、まずはその広く青い世界に目を見張り、浮遊感に感動した後で、生物との出会いや発見に好奇心を刺激されるのと同じ順番なのだ。
その水塊も、かつては水槽の大きさだけで決まっていたが、近頃では美しさの追求や新しい技法など、様々な工夫によって水塊度の高い水族館が増えて来た。
全国の水族館の中から、現代人ならぜひ訪れたい水族館を、水塊度を基準にランキングしよう。
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