オットセイは毛皮アザラシ
南アフリカのオットセイの生息地に潜ったことがある。ボートで島に近づくと、彼らは興味深そうにこちらをうかがっている。若いオットセイたちはボートの周りをイルカのように跳ねながらついてくる。ただし、ボートのそばにまではやってこない。
ところが、水中カメラを持って潜ったとたん、オットセイたちは大挙して集まってきた。「この冷たい海によく来たな~、じゃあオマエも仲間だ」みたいな感じ。
その中の1頭が目の前までやってきた。水中ビデオのハウジングに空いた大きなレンズ窓をのぞき込んだり、ボクの着けている足ヒレをひっぱってみたり、あげくのはては髪の毛を噛んで引っ張る。ボクは彼の乱暴な歓迎にホッとした。
実はオットセイと人間との間にはとても悲しい歴史がある。彼らはアシカの仲間としては上質の毛皮を持っているために、ヨーロッパの人々に大殺りくを受けたのだ。殺したのは南アフリカの人たちだが、南アフリカでは毛皮は必要ない。本当に殺したのは毛皮を欲しがった人々だ。
ミナミアフリカオットセイが発見されるまでは、ヨーロッパでは北大西洋にいたアザラシの毛皮を使っていたのだが、アザラシは乱獲で減っていた。そこにアザラシ以上に良質な毛皮の動物として現れたのが、このオットセイだったというわけだ。
オットセイの英名は「ファー・シール」、これは「毛皮のアザラシ」という意味。つまり、アザラシとは明らかに違う動物とは認識されながら、いい毛皮の取れるアザラシと命名されたのだ。
毛皮のアザラシと名付けたくらいだから、彼らの命よりも毛皮をどれだけ奪うかが大切だった。特に柔らかくて淡い色という良質の毛皮を持っている子どものオットセイが狙われて、次々に撲殺された。
オットセイのそれまでの長い歴史には、陸上で彼らを撲殺するような動物などいなかったから、彼らは逃げることもなく殺されていったのだそうだ。
そんなことがつい最近になるまで繰り返されて来たにも関わらず、ヒトを昔からの友だちだったかのように迎えてくれたオットセイ。彼らの好奇心に動く大きな目と、乱暴な歓迎の挨拶がとても嬉しかった。
今では観光船も出て、人々は無邪気にオットセイたちの歓迎を受けている。
ところで、普通シーライオンと呼ばれるアシカの仲間に、ファーシール(毛皮アザラシ)の名前が付けられているのはとてもややこしい。おかげで英文を訳した新聞や旅行ガイドなどに、明らかにオットセイの写真なのに「アザラシ」と表記されていることがとても多い。
中村 元
※ |
キタオットセイの歴史については→「膃肭臍=オットセイ」 |