膃肭臍=オットセイ
北海道近海の海獣なので、漢字による表記もある。「膃肭臍」だ。しかしながら実はこれ、オットセイの睾丸とペニスを材料にした漢方の精力剤と同じ表記だ。つまり、オットセイは商品名を和名としてつけられた悲しい動物なのである。どうやら、ハーレムをつくり、飲まず食わずで交尾をする生態が、ヒトの目には精力絶倫の動物として羨ましく映ったのだろう。
さらに、オットセイと名前のつく仲間の特徴なのだが、とりわけ寒い海域で暮らすキタオットセイは、特別に上質な暖かい毛皮を持っている。この毛皮も彼らのわざわいのもととなった。
特に、アメリカやヨーロッパで毛皮の需要が増えた頃には、北海道周辺のキタオットセイやラッコは、陸上の動物たちと共に大量に捕獲され、毛皮となって輸出された。
オットセイたちの毛皮が上質なのは、その仕組みにある。寒風から身を守るだけでなく、水中に入ったときには細かく密集した綿のような毛が空気をため込み、体の回りに空気の層をつくって熱が奪われるのを防いでいるのだ。
この空気の層のおかげで、オットセイたちは、海面にラッコのように浮かぶことができる。
天気のいい日に伊豆三津シーパラダイスに出かければ、オットセイたちが水面で前脚と後ろ脚で輪をつくり、プカプカ浮かびながら昼寝をしている姿を観察できるだろう。
毛皮や睾丸としてではなく、のんびりと昼寝するオットセイたちと会えるようになったことを喜びたい。
中村 元
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ミナミアフリカオットセイの毛皮についてのコラム→「毛皮アザラシ」 |