シャチはトレーナーを襲わないのか?
英名ではキラーホエール=鯨殺し(あるいは殺し屋鯨)とまで呼ばれるシャチ。実際、巨大なクジラを家族で仕留めたり、イルカやアシカを襲っていることがよく知られている。
なのに、水族館でトレーナーを襲うことはないのか?実は今まで、野生のシャチがヒトを食べたという記録はない。また、アメリカのシーワールドでシャチがトレーナーに襲われたことがあるが、どうやら襲われたのではなく、悪ふざけが過ぎたというのが真相だ。
最近の研究では、シャチには住んでいる場所や血統によって、ヒトで言う民族のような生活文化の違いがあり、それによって食文化にも特色があることが分かっている。
例えばよく研究がされているバンクーバー湾のシャチには、アシカやイルカ、クジラなど海生哺乳動物だけしか食べない文化と、サケやサメなど魚類しか食べない文化があるのだそうだ。海生哺乳動物しか食べない文化のシャチ民族は、どれほど腹が減っても魚はけっして食べないことも分かっているので、水族館でホッケやサケをエサにもらっているシャチたちは、哺乳動物食い民族ではないことは確かだ。だったら大丈夫、ヒトは魚ではない。
ところが研究ではさらに、北太平洋には、海生哺乳動物と魚類のどちらも食べるシャチ民族もいるらしい。気になったので、鴨川シーワールドの館長に尋ねてみたら、日本のシャチは、どちらも食べている文化だと思われるとのこと。そ、それはちょっとマズイのでは?と、心配したが、実際にパフォーマンスをしているところを見れば、シャチがヒトを食べるなんて、トレーナーもシャチの方も微塵も考えてないのだろうと分かる。
シャチたちは野生の頃から、得意のエコーロケーションでヒトの体を調べ、脂肪が少なくて突起物の多いとても不味そうな生き物と理解しているのかもしれない。
あるいは、頭のいいシャチは、エサを毎日くれるヒトを、共生する仲間か家畜のように見なしているのかもしれない。つまり、卵を毎日産んでくれるニワトリを食べてしまうような愚かなことはしないのだろうか。
いずれにせよ、水族館のパフォーマンスタイムでは、シャチとトレーナーの間に、お互いの信頼関係がしっかり築かれているのが見て取れる。