あなたは水族館に、何を期待して訪れるのだろう。
巨大な水槽の前でゆらめく光に浸り日常からの脱出を図る。
いつでも力一杯な海獣たちから元気の源をもらう。
水槽の隅まで見つめて自分なりの発見をし、知的好奇心を満足させる。
クラゲや川のせせらぎとのシンクロによる癒しを得る。
自然の中で無為な時間を過ごす。
……そう、水族館は、日々の暮らしで乾いたカサカサ肌のあなたを、圧倒的な水の量と、野生の命たちの無限のパワーによって、再びしっとり潤すことのできる空間なのだ。
水族館はすでに、動物を観察するだけの場所ではなくなった。水族館には動物たちだけでなく、いつしか不思議な物の怪も住まうようになったのだ。そんな水中に住む物の怪たちの力によって、水族館は、あなたの心を開くいくつもの扉を持った場所になっている。
心の中で欠けていて何か、探したい何かを、水族館は見つけてくれる。おそらくあなたは、無意識のうちにそれを知って水族館へ行きたい気分になっているのである。
本書は、水族館が持ついくつもの扉の中から、あなたの探している扉を見つけやすくしようと願って書いた。
かつては水族館も動物園も、近所に一つはあって、ボウリングでもするみたいに、時々訪れるだけのものだった。あるいは水族館は観光地にあり、お刺身とサザエの壺焼きを食べたついでに、ちょっと覗いてみるものだった。
訪れる側にはなんの選択肢もなく、水族館から与えられたシチュエーションを、けっして安くはない入館料なりに楽しむことを定められていたのだ。
ところが今は違う。情報の伝達力も交通網も発達し、すっかり狭くなった日本全国から、自分に合った水族館を自由に選んで訪ね、心の中の探し物を、楽しく見つけられるようになった。ちょっと足を伸ばせば、あなたの心とシンクロするような水族館がきっと見つかる。
本書を、ぱらぱらとめくっていただきたい。そして「おやっ!」とか「あらっ?」とか「まあ!」でも「ほー」でも「ほよよ~ん」でも何でもいい。とにかく心に何か引っかかったようなアタリを感じたら、そのページをさらさらっと読んでく欲しい。そうすれば次の行動もさらさらっと始まるだろう。ほとんどの場合、そういった行動は大当たりだったりするものだ。
ヒトの能力というのは実に不思議なもので、探しているものがわからないという状態に陥ったときには、すでに意識外の脳細胞が、答えまで見つけてしまっている。見つけているからこそ、何かを探さねばと気になっているのだ。
そう、実は本書を手にしたときから、すでにあなたの行くべき先も、見つける答えも決まっている。あとはもういちもくさんのまっしぐら。あなたの会うべき動物、行くべき水族館へすぐに向かっていただきたい。
中村 元