
水族館の仕事を始めた頃、アオウミガメとアカウミガメの見分け方を教えられ、それをガイドのときに披露したらまったくウケなかった。まあそうだろう。
そこで次のガイドのときに、「浦島太郎が乗ったカメは、オスとメスのどっちでしょう?」とやったら、これはウケて、見分け方にも興味を持ってくれた。
それ以来、水族館をプロデュースするときにも解説文を書くときにも、身近で素朴な驚きや疑問から入ることにしている。

鳥羽水族館で副館長をしていた時には、時間があれば館内に出て、来館者と話をするように努めていた。そこで質問されるのは驚くことばかり。
「死んだ魚は食べるの?」「イルカが病気になるとどこに入院するの?」「アシカはどうやって言葉を覚えるの?」
なるほど、来館者にとっては、動物のことだけでなく、水族館も謎に包まれていたのだ。

水族館の常識は世の中の非常識。
水族館でしか起こりえないさまざまな出来事を、水族館でしか解決できない方法で解決しているからだ。それは水族館にとってはごく当たり前のこと。しかし一般社会では驚きの新事実だ。
そんな水族館の常識が一般に知られることが本書の目的だ。その常識は、みなさんの素朴な疑問にも答え、もしかしたら生活や事業に役に立つかもしれない。なによりも、水族館が今以上に愛されるようになるだろうと思うのだ。