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「恋人はイルカ」立ち読みコーナー

恋人はイルカ 〜ドルフィントレーナーにあこがれて〜

 著者:中村 元
 出版:マイクロマガジン社

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目次

プロローグ:わたしがわたしである瞬間
01 動物の顔を見ないと、落ち着かない 02 ショータイムへの準備
03 大切なのはヤツらの目つきなんです。 04 ウエットを着ると、いきなり気合い入ります。
05 トレーナーは水棲動物 06 サルとおばあちゃんの戦い
07 シャチとの出会い 08 小学5年生の誓い「わたしはトレーナーになる」
09 トレーナーへの遠い道 10 ドルフィントレーナー専攻一期生
11 夢への扉が開いた 12 新人の頃は、自分がもどかしかったです。
13 イルカの世界が見えた! 14 相手を認めることから始まる
15 動物もわたしの先輩 16 うまくいかないときには自分を見直す。
17 シロイルカと抱き合って笑った 18 初めてのトレーニング
19 目をグリグリさせて、獣医にオロオロ 20 アコはわたしの子ども
21 セイウチに動かされてることがあります。 22 動物はトレーナーの鏡
23 お客さんだった頃の楽しさが大切 24 恋人はイルカ
25 連続ドラマは見られない職業です。 26 ずっとショートレーナー
27 イルカの死にわんわん泣いた 28 私ができること
エピローグ:福田智己からのメッセージ
プロローグ:わたしがわたしである瞬間
この瞬間がわたしなんだ!
水深6メートル、急激な潜水による加圧でウエットスーツが圧縮され、全身がギュッと締めつけられる。鼻孔に大量の海水が流れ込み、耳がキーンと鳴り始めた。一瞬のことなので耳抜きはしない。
ゴーグルを着けないぼやけた目で、水底が迫ってくるのを確認すると、彼女はバランスをとりながら上半身を軽く反らせた。
神経を足の裏に集中する。それまで足の裏をただただ力強く押し続けていた力が、少し弱くなり方向を変えたのが感じられた。
いい感じだ、今日もうまく伝わっている。顔から胸にかけて水圧を感じた次の瞬間、足の裏には突き上げるような力強さがよみがえり、体は斜めに上昇を始めた。
周囲がみるみる明るくなる。キーンと鳴っていた音がおさまり耳の奥がゆるむ。もうすぐ……。
頭が水面をザバッと突き破るが、その音はまだ緊張のほぐれない耳には聞こえない。
彼女はただひたすら水面からの位置の確認と、今も足の裏を突き上げる力に集中していた。
「今だ!」
彼女は軽く曲げていた膝を伸ばし、それまでためていた力を解放した。
足の裏の確かな手応えとともに、水面が離れていく。
さっき突き破ったばかりの水面の上空はるか5メートル、放物線の頂点に達したとき、頭の後ろに束ねていたスパイラルの髪が跳ね上がり、ほとばしる飛沫が、彼女の頭上にきれいな弧を描いた。
両手を大きく広げて跳ぶ彼女の目には、彼女を空高く押し上げてくれたあと、2メートルほど下を追いかけるように跳ぶオキゴンドウの背中が見える。
そして、ようやく緊張の解けた耳に、2千人の観覧者が発したどよめきと歓声が届いた。
大量の水滴とともに水面に向かって落下し、再び水中に没すると、オキゴンドウは彼女を待っていたかのようにすり寄ってきた。
彼女は水面に顔を上げながら相棒の太い首に手を回し、つるりと黒く弾力のある頭にキスをする。「これだ!この瞬間がわたしなんだ!」
トレーナー福田智己の顔から笑みがこぼれた。
福田智己28歳、日本有数の巨大水族館「横浜・八景島シーパラダイス」のショートレーナーだ。
横浜・八景島シーパラダイスの海獣ショーは、シャチで有名な千葉県の鴨川シーワールドと人気を二分する、日本で最高峰の海獣ショーとして名高い。
ショーを観覧する観客数は年間180万人を超え、福田は日本で最も多くの観客の前で演じるトレーナーの一人である。
飼育係じゃなくトレーナーになりたかった
跳躍力の高い鯨類の鼻先で押してもらうことで、水深6メートルのプール底から一気に空中5メートルに跳び上がる人間ロケットは、福田の最も好きなパフォーマンスだ。
他のどの鯨類パフォーマンスよりも華やかで、観客の歓声もひときわ高い。
もちろん、テクニックとともに体力も必要な、この演技ができるトレーナーは、女性では全国で数えるほどしかいない。
しかし福田にとってれはたいして重要なことではない。それよりもこの難しい演技を成功させるための、言葉の通じないイルカと心を通わせた一体感が、なにより彼女の心をとらえて離さないのだ。
イルカとパートナーを組む喜びこそ、彼女が幼い頃から追い求めてきた感覚なのだから。
『わたしは、水族館が特別に好きだったわけでも、飼育係になりたかったわけでもありません。ただ彼らと一緒にパフォーマンスをするショートレーナーという仕事がしたかったんです』
彼女は知っている。いくらオキゴンドウより高く舞い上がっても、観客の歓声は彼女に送られたものではない。観客は、イルカたちの能力に感動し、彼らのことをますます好きになる。動物たちの魅力を引き出す舞台が海獣ショーだ。
彼女は、主役である海獣たちの才能を引き立てるパートナーとして、ショートレーナーにあこがれ、今ついにその舞台に立っている。
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※禁転載。ここに記載されている全ての写真、文章などは中村元の著作に帰属します。