立ち読み
第2編
事業計画立案のポイント
1.水族館ビジネスの可能性
水族館をビジネスの視点で考えるとき、「サービス事業」や「教育事業」の観点でのみ捉えるのは、水族館の本質をみていないといわざるをえない。なぜなら、水族館ビジネスの基本は「開発事業」だからである。
巨大な資本投資が必要な水族館は、出来上がったたった1つの商品である水族館を、20年以上売り続けなくてはならない。商業施設のように商品やサービス形態の変更もできないし、映画館のように上映作品(ソフト)が短期間で変わるものでもない。開業した時点での水族館の質や評価は、再び完全リニューアルを行なわない限り変わらないのだ。
これはビジネスではない公立の水族館でも当てはまる。否、税金を納めている国民としては、公立だからこそ利用価値の高い事業を継続してもらわねば困る。これからの時代の行政は、水族館を新設する場合もリニューアルする場合も、できる限り多くの国民に、できる限り長く利用される施設に仕上げなくてはならない義務がある。
その点で営利事業であろうが公共事業であろうが、水族館を計画・建設するにはそれ相応の覚悟が必要なのだが、開発事業であると認識したうえでの知識と開発技術さえあれば、水族館事業は成功しやすい事業でもあるといえる。
理解すべきは、水族館は他の産業に比べて特殊な事情のある事業であるということである。水族館の開発は、水族館の運営能力や経験があるからといってできるものではなく、逆にその経験が失敗への道を歩ませる原因となることもある。
それらのことを踏まえたうえで、本編を読み進めていただきたい。水族館事業を開始する、あるいは継続する際の指針となれば幸いである。
1-(1)事業環境の変化
現在のわが国において、水族館は大衆文化として成功を収めている希有な存在である。「大衆文化」という言葉が気に入らない水族館関係者も多いようなので、言葉を換えて「マスカルチャー」といってもよいが、いずれにせよ大衆に浸透し、誰でも利用および理解できる文化施設であることには変わりない。それは、大衆スポーツといわれる野球やサッカーが、そのゲーム性や選手のタレント性の強さによって多くの人々から愛され、それでもスポーツの本質を失ってはいないことと同じ道理である。
水族館の未来や意義を考えるときに、この「大衆性」を忘れてはならない。とりわけビジネスとしての可能性を追求するときには、水族館をまぎれもない日本一の大衆文化施設である、あるいは超一流の大衆文化となりつつあると位置づけることが重要である。
最初にこの点を強調した理由は、水族館には大衆文化とは逆の「ハイカルチャー」になろうと努力してきた歴史がある……