『残酷な食事』 中村 元

二人のラッコが、テレビでアマゾンの特集を見ていました。
川を流れてきた動物の死体に、たくさんのピラニアが群がっています。みるみるうちに動物は白骨化してしまいました。
女の子のラッコが、両手で目をおおいながら言います。
「きゃー!なんて獰猛な魚なの。それに見てよ、あの残酷な食べ方。私たち、アマゾンに住んでいなくてよかったわね。」

次に紹介されたのは、大蛇アナコンダが川辺に水を飲みに来たカワウソを食べるシーンでした。するするっと地面を這い寄ってきたアナコンダが目にもとまらぬスピードで、愛らしいカワウソに襲いかかります。
ヘビに体をぐるぐる巻きに絞められたカワウソは、ひとたまりもなくぴくぴくと息絶えます。ヘビはそれを頭から丸飲みするのでした。
「ひゃー!こっちの方が残酷だよ。ぼくらの仲間が、ヘビみたいな気持ちの悪い奴に丸飲みにされるなんて!とても見ちゃいられない。なんて残酷な食事なんだ」
今度は男の子のラッコが、目を見開いて叫びました。

番組が終わったので、ラッコたちは食事をすることにしました。
今日は美味しそうなカニが捕れたようです。カニはラッコたちの大好物。
「私はね、カニに鼻を挟まれるのが嫌だから、まずハサミをもいじゃうのよ。」
「ぼくはね、お腹の上から逃げだそうとするから、まず足をもいじゃうよ」
ラッコたちのお腹の上で、ハサミをもがれたカニと、足をもがれたカニは、まだ生きたまま、食べられるのを待っています。
「さっきのテレビ、残酷だったね」
「うん、ピラニアもヘビも大嫌いよ。」
ラッコたちは、残酷な食事の話しに夢中になりながら、哀れなカニに食らいついたのでした。
「いただきま~す」