■ 平成の水族館革命の集大成できました! ~まえがきに代えて~
水族館は今や日本を代表する大衆文化の一つとなりました。テレビや新聞ではほぼ毎日どこかで水族館の話題が語られ、ネット上では常にだれかが水族館の写真や動画をアップし、水族館好きの人たちのグループはいくつもあります。私が水族館の展示係として勤務しはじめた頃の水族館は、動物園の亜流のように扱われ、利用者数も動物園に対してはるかに少なかったのですが、今では全国の水族館の総利用者の数が動物園のそれを上回り、その変化には隔世の感があります。
この変化はとりわけ平成30年間において劇的に進みました。葛西臨海水族園、海遊館といった新しい巨大水族館の誕生から、美ら海水族館や名古屋港水族館など超巨大水族館の時代は、平成水族館の特徴の一つです。さらに、昭和の水族館黎明期に生まれた古い水族館のリニューアルも怒濤のごとく行われ、うみたまご、アクアワールド大洗、新江ノ島水族館、サンシャイン水族館、北の大地の水族館など様々な規模の水族館が生まれ変わりました。そしてそれら規模の大小に関わらず、水族館の新たな魅力になったのは水中感あふれる「水塊展示」です。
また、別のアプローチでお客さんから愛される水族館も続々現れました。クラゲ展示に特化した加茂水族館やペンギンに特化した長崎ペンギン水族館、海獣の柵無しふれあい展示を発明した伊勢シーパラダイス、スタッフまで展示物にして手描き解説が大人気の竹島水族館などです。旭山動物園や円山動物園など、動物園展示の水族館化も、平成の水族館時代における大きな変化でした。
平成時代にこうした大きな変化があったからこそ、水族館は動物園の亜流施設の地位から、大人が愛する大衆文化施設へと進化を遂げることができました。さらに、大人が利用する多様なスタイルの水族館が生まれたおかげで、2005年に私の最初の水族館ガイド『決定版!全国水族館ガイド100』が平成初のガイドとして実現し、その後、毎年のように新たな水族館が誕生することによって、出版社が変わりながらも2012年まで改訂版を重ねることもできたのです。
そして最後の改訂版から7年、水族館文化がさらに大きく進化した今、平成の水族館革命の集大成とも言える本誌を令和元年に上梓できました。この最高のタイミングを天命と受けとめ、できる限り写真や内容を更新しようと水族館再訪に務めました。結果、本誌で紹介する水族館は125館、また本誌での再編纂のために改めて訪れた水族館は、新たに掲載の18館を含めて109館。現代の水族館をビジュアルで総ざらえした、平成の水族館革命の集大成に相応しい内容になったと自負しています。
本誌が他のガイドと大きく違うのは、全ての水族館を自ら訪問し、その感想と自ら撮影した写真のみを掲載していることです。さらに訪問時も取材という形ではなく、あくまでも一入館者としてチケットを購入し入館することにこだわった道楽的スタイルです。
そもそも、最初に全国水族館ガイドを著すに至ったのは、水族館プロデューサーという日本唯一の職業人として、新しい水族館文化の発展に繋がる活動をしたいとの思いからでした。そこで、日本動物園水族館協会以外の水族館や同等施設も探して訪れ、当時で100館の水族館を紹介するという試みを実現しました。それは、ガイド本としての役割よりも、マニアック読み物にした方が水族館に興味を持ってもらえ、水族館文化のために役に立つだろうとの狙いでした。
もちろん多くの方々がその狙い通りにご愛読いただいたのですが、驚いたことに、このガイドを手に水族館を旅する方々も多くいらっしゃったのです。中には100館の水族館を制覇するという強者までもが何人も現れ感激しました。また、類似のガイド本が次々に発刊され、そのどれもが全国100館を基準に紹介しているのも嬉しい現象でした。水族館文化の発展という私の水族館ガイドの目的は、読者のみなさんのおかげで予想を超えて果たされていたようです。
平成の水族館革命の集大成となるこの最新版『中村元の全国水族館ガイド125』が、更なる水族館ファンを増やす原動力となり、新たな水族館文化への道筋の一つとなれば幸いです。
中村 元